彼女は、たった1人でそこに立っていた。

それは、遠き日に観た夢の事。

 

「羚風さ〜〜〜〜ん♪」

古い校舎の昇降口に響いたその声に、柚月はふと足を止めた。声の主を確認するとそれはクラスで3番めに目立つ行動をする少女。

「おはようございます。大佐古さん♪」
「おはよ〜♪ってか冬だからって寒くない?」
「ですね…」
「って、じゃなかった。」
「?」

「羚風さん♪誕生日、おめでとう♪」

その言葉に柚月は自分の記憶を辿れる所まで戻って見た。梓翠が出かけたのが1週間ほど前の5日。で金曜日。そして、昨日帰り、今日は12月2回目の金曜日。

「…今日って12日でしたっけ?」
「やだな〜羚風さん自分の誕生日忘れたらだめじゃん♪」

そして。大佐古嬢は紅いリボンのついた袋を渡してさっさと階段を上がって行ってしまった。

その様子を見ていた人物がちらほらと…

「ゆ〜っ〜ちゃ〜ん〜ど〜して誕生日教えてくれなかったのさ!オマケに何でさこっちがしってるのさ!!」
「…私自身が忘れていたんですけど…というか真唯さん?」
「なう?」
「…その格好…」

柚月の横に現れた夏娘真唯の冬姿は、形容する言葉は一つ。

「マフラーだるまみたいですよ?」
「ンなこといったってさみ〜し。」

彼女の首には色取り取りのマフラーが数本、更にはコートが何故か2枚重ねられ、ソノしたのセーターも何枚か重ねられていた。

「プレゼント明日でいい?!」
「と、いうか別に気にしないで下さいよ…誕生日なんて来年もきますし…」
「うんにゃ、16歳の誕生日は今年だけ。つ〜ことで明日ね〜♪」

そう言うと真唯は早々に走って行ってしまった。

消した気配が復活したのはその直後だった。

「ゆ〜じゅ〜きゅぃ〜ゴメン!忘れてた!!」
「…だから別に…」

狐の耳が生えたみずまんじゅうはその耳を限界までたれさせて、柚月がたつ昇降口の、下駄箱の硝子部分から現れた。

「うんにゃ。真唯嬢のセリフ借りるならば『○○○○16歳の誕生日は今年だけ。』」
「そういえば狐の生き血、丁度欲しかったんですよね〜♪」
「…面白いコトするからカンベンして?」
「ものによります。」
「ハクジョウナドウリョウ様達に報告。」
「いってらっしゃ〜い♪」

柚月の刺のある笑顔に見送られ、みずまんじゅうは硝子に溶けて行った。


「さて……久しぶりに阿鼻叫喚。聞けますね♪」


そう言って、柚月もにぎやかな校舎内に消えて行った。

 

「で?僕&柚月への遺言♪ちゃんと聞きますよ?」

そういいながら柑は笑っていた。が、間違いなく御怒り度数は上がっていた。

その部屋の中に居るのは柑と、体育教師の明日、社会教師の令、そして社会科主任の神哉だった。

「け〜ん〜そんなにさ…怒ると火出すよ〜?」
「僕がそのような事許すと想いましたか?」
「で〜した〜…」

柑の座る窓の外では既に太陽は西の方に行っている。空にはオリオン座などが輝くその日の朝、職員室の一部では地獄絵図が展開されていた。



「あ…っと…」
『にゃから、今日柑&柚月嬢の誕生日。柚月嬢はともかく、柑はやばいね〜♪』
「え…っと…」
『つ〜わけで。あ、とりあえず心優しき時空の同僚からの御言葉上げるね〜『死ぬな。』』

令のケータイの画面に出ていたみずまんじゅうはその一言を残して消えた。後には、令お気に入り、体育教師明日の水泳授業姿(Not盗撮)があるだけだった。そんなお気に入りの画像すら、今の令には癒しにならなかった。

「どうした?ってまたお前その写真!」

明日は背後からケータイを取ろうとした。が、それはカンタンに令にあしらわれた。

「明日…今すぐ残り同僚呼んで来い。」
「へ?」
「ってさぁ…居るけど?神哉以外。」

2年の担任教師の一角から声が上がり、楓、李亜、命の3人が令のそばによった。

「どうしたのさ?」
「………………このなかに…」

「柑と柚月の誕生日覚えてたヤツ・・・居るか?」


コンマ秒入れないスピードで、職員室に悲痛な叫びが上がった…



「そ〜ですよねぇ。明日とか令とか李亜とか楓とか命とか梓翠とか、挙げ句の果てには神哉の即位記念日とか、ちゃ〜んと祝って差し上げている心の広い友人の誕生日を祝わないと言う事はもう祝わなくてもよろしいと言う事ですよねぇ♪」
「「ごめんなさい…」」



柚月は、その夜、夢の空間に飛んだ。

そこには既に柑が浮いていた。

「因みにどれがいいって?」
「一万年コキ使うのがいいそうですよ♪」
「そっか…」

そして、2人は向き合った。

外見、周りの気、すべてが相似形の2人は、御互いの顔を見て笑った。

「16歳。誕生日おめでとう。柚月。」
「25916歳。誕生日おめでとう。柑。」
「僕そんなに歳でしたっけ?」
「多分ね。」

そして、2人はまた笑いあった。
 
生まれた日のことは覚えていない。

けれども暖かい、それだけは覚えている。

遠き日に見た夢のようで、

いつも眠りに誘われる。

言いたい事はただ1つ。



”この世に居て、ありがとう”

 

 

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