――― ただ命令を聴くだけだった・・・
            『カミノイノママ』に動くだけだった・・・



          白い花と紅い剣



初代神、史真が滅ぼし、また新たに創った人間界では再び文明が過ぎようとしていた。

天界の中央神殿にある二番目に日当たりのいい部屋には三代目神が山づみにされた書類を目の前に軽い貧血を起こしていた。いつもならばこういう時には同等の存在である天地四方位守護神達が気に入って天界に連れてきた守護師達――とりわけて初代神の時からすでに天界にいる青龍の守護師、その神に大量虐殺の罰を受けて100年ほど封印されていたという不思議な過去のある朱雀の守護師、それと大して役に立たないだろうが頭脳だけはある幸香の守護師の所謂『天界最凶トリオ』が手伝ってくれる所だが当の三人ふくむ天地四方位守護神の守護師全員が先日天界に連れてこられた仲間の方に行っているため、三代目神――深皇は山積みにされた書類に1人で立ち向かわくてはならなかった。

ふと、深皇は部屋の一角につるされた大きな文字盤を見た。ソコには下界全世界の西暦や年号、月日や時間なども記されている『天界最凶トリオ』御謹製の優れものだった。そして深皇は西暦を見て何かに思い当たったように通信ボタンを押した。そのとき西暦は1425を指していた。




程なくして深皇の部屋に4人の天使が入ってきた。1人は全身の色を薄い水色で統一し、薄い青の長髪を節を造るように結んでいる。普通天使というのは飛ぶとき四方八方を見渡さなければいけないため目はいいはずだがその天使はめがねをしていた。

「呼びましたか?深皇様。」
「相変わらず早いね。二代目ラファエル君♪」
「いえいえ。初代は史真様をキレさせるほど遅かったといいますし♪」
「まあ早いに越した事はないでしょ。プライム=R=クレッセント君」

めがねの天使――プライムは軽く微笑んで後の三人を見た。一人はプライムと同じくらい長いうす緑色の髪をバンダナでまとめて後に流していた。残り二人は全身が赤と濃い青の天使だったが、前の二人と違い髪は短くヘアバンドを付けていた。青い天使のほうはそのヘアバンドを片方の目元まで落とすように付けていた。

「クリレス〜何だか深皇様今日機嫌悪いよ〜〜〜」

微笑みながらそんな泣き言を言ってくるプライムに呆れ顔でバンダナの天使――クリレスはやれやれといった面持ちでそれに答えた。

「当たり前だろ・・・周りの書類見れば判るだろ?」
「あ、それもそっか。そういえば本日はあの天界凶悪トリオはどうなさったんですか?」

悪気があるんだかないんだか良くわからない微笑を浮かべながらそんな問いをしてくる確信犯のプライムをみて座ったままの深皇はこめかみを押さえうなだれた。そんな神の様子を見て赤い天使が助け舟をだした。

「あのトリオはここ最近、新入りさんの世話で忙しいから来られないんだよ。」
「そっか〜・・・って良く知ってたね〜。えらいぞ♪フォッグ♪」
「・・・・・・・・・如何でもいいが俺達を呼び出した理由は何だ?」

赤い天使――フォッグの後ろで青い天使がつりあがった目の間にしわを作りながら復活した深皇に向かって質問をしたところでようやく深皇は本題を思い出した。

「あ。ゴメンゴメン。ってな〜にセアネル君不機嫌度増してるのさ?」
「ゴメンなさい・・・セア兄ぃ寝起きで・・・」
「遠征帰りで疲れてるんっすよ・・・ったく・・・しゃきっとしろよ」
「うるせぇよ兄貴・・・」

青い天使――セアネルは兄であるクレリスにすら不機嫌な態度を崩さなかった。そんな様子を見て深皇は微笑みつつ一冊の書類を開いた。

「さて・・・本題に入ろうか?見ての通り今下界の西暦は1425年。フランスの月では8月を指している。この度の召集の目的はある1人の聖職者でもなんでもないフランスの片田舎の1人の信心深い娘を聖女にするためだよ。」
「・・・・・・そりゃまた・・・ずいぶんとっぴな事を考えていますね?」
「ふふふ♪プライム・・・いまフランスという国はそういうことが起こっても可笑しくない状況なのだよ?」
「ああ。『百年戦争』だろ?いまフランスとイギリスの間で起こっているっていう戦争。」
「良く知っているねフォッグ・・・ああそっかあの不良司書かい?」
「そうっす。で?その少女のデータあるんっすか?」

そう問われた深皇はそれまで開いていたファイルを笑顔で閉じて笑顔で四人に向き直った。

「ごめん。実はないんだ♪」
「「「「はぁ!?」」」」
「だからさ〜その子が16になるまでにデータ取ってきてくれない?」
「・・・なぜ俺らが?」
「君達が世間一般的に四大天使として有名だからだよ?〜二代目ガブリエル君♪」
「・・・・・・めんどくさいですね・・・」
「ま〜そういわずにいってみてよ♪なかなか興味深いらしいからさ♪」

そう言った最高神の顔はむしろ『ざま〜みろ』といった風貌で、それがセアネルの怒りに触れたのは言うまでもない。



そうして少女の生まれたフランスの片田舎に四人は降り立った。だからといって凡人に姿が見えるはずもなく、聖職者ですら四人を見るのは至難の技だった。四人はその少女の家に一番近い木に舞い降りた。少女の家には母親と父親、そして姉が1人いた。が、問題の少女の姿が何処にもなかった。

「あれ?その女の子は?この家であっているよね?」
「プラ兄ぃ・・・そんなに焦らなくても・・・多分教会だろ?」
「・・・あれか・・・兄貴とプラ兄ぃはここに居てくれ。行くぞフォッグ。」
「あ、うん☆じゃあ観察ヨロシク☆」

そういってフォッグとセアネルは遠くに見えた教会特有の結界に向かって飛んでいった。あとには真っ赤なファイルを片手に持ったプライムとクリレルが残った。

「・・・プラ兄ぃ・・・それなんなんだ?」
「ああ。図書館から借りてきた。ちょっと気になってね♪」
「・・・ふ〜ん・・・」


教会特有の結界は普通、人ではないものは通れないが、そこは四大天使ということですんなり進入をはたせた。

中は典型的な地方教会で天井は都会型教会とは違い低めでいたって質素な造りだった。奥には教会には必ずあるキリストが十字架にかけられている像が置かれ、その後には神をかたどったと思われるステンドグラスがあった。十字架の左右に四体の像が置かれていたが、その像は世間一般見解の四大天使たちの姿であり今現在この村に来ている四大天使の姿形とはかけ離れたものだった。

「ったく・・・なんで俺の像は毎回女っぽいんだ?やっぱ受胎告知の時あんな薬飲んだまま行くんじゃなかった・・・」
「けどセア兄ぃ?あの時行かなきゃ・・・」
「・・・わかっているよ・・・過ぎたこと悔いてもしょうがないしな・・・」
「・・・・・・ってか件の少女どこだ?」

二人は余り広くない教会の中を見渡した。だが少女の影はおろかねずみ一匹見当たらなかった。

「・・・見当たらないね・・・」

そのときミカエル像のすぐソバにあるドアの開く音が響いた。二人は反射的にそれぞれの像のソバに身を潜めた。別に見えるわけでもないが念のためにそうしろとプライムから言われていたのだった。ドアから出てきたのは1人の少女だった。少女は司祭と会話を交わしてドアを閉めた。司祭はそのまま奥で仮眠を取るらしかった。そして少女は十字架の前に行き二度礼をした。そしてラファエル、ウリエル、ガブリエル像の順に礼を一回ずつしていった。その姿を見ていたためフォッグはセアネルのように少女の死角に隠れるタイミングを派手に間違えた。

「・・・・・・・・・だれ?」

その問いにフォッグはほぼ石化し、セアネルはやれやれといった面持ちで『がんばれ』と念を送った。

「あ・・・・・・・・・・・・・っと・・・」

フォッグの唯一の救いは隠れるために羽を収納していた事だった。少女はミカエルの像に近づいていってフォッグに手を差し伸べた。

「そこ・・・ミカエル様の像だから降りな?可哀想だから。」
「あ・・・そうだな・・・」

フォッグは自分の身長の倍ぐらいの高さから飛び降りた。それを見た少女は軽く微笑んだ。

「貴方この村の人じゃないでしょ?」
「あ・・・うん・・・なんでわかったんだ?」

少女は長い金髪をかき上げ中空を見てまた微笑んだ。

「・・・だってこの村の男の子って『ためしの崖』から飛び降りられないのばっかりだもの。だいたいこの像と同じくらいなのよ?」
「へ〜・・・って俺も兄貴達に鍛えられたから出来たわけで・・・」

フォッグは嘘はついていない。実際にプライムに崖から羽を封じられて突き落とされた経験がある。もっとも高さは教会がたてに10個重なっても届かないくらい高い場所からだった。その時の記憶とプライムの嘘泣きの笑顔は魂にまで染み付いて離れない。

「それでもいいじゃない。貴方名前は?」
「フォッグ・・・フォッグ=M=フォーリー・・・キミは?」
「私?私は・・・ジャンヌ・・・ジャンヌ=ダルクよ・・・」

物陰に隠れたセアネルはその名を聞いて呼吸法を間違えそうになった。なぜならその少女、ジャンヌ=ダルクこそ神から聖女にしろといわれた少女だったからだ。フォッグも表面上は冷静だが心の中は大慌てだった。

「・・・そうか。いつもここに来てるのか?」
「うん。司祭様の話面白いから。」
「・・・信心深いんだな・・・全部に礼して・・・十字架には2回・・・」
「違うよ。十字架とあとその後ろの神様に。一回ずつ。」
「・・・珍しいな・・・皆十字架にするのに・・・」

フォッグは職業柄何十回も教会に行った事がある。がその大多数は十字架のみに礼をし、その周りの神の絵や天使の像に見向きもしなかった。だが自分の目の前の少女は違っていた。そして少女は一歩近づきフォッグの闇赤色の髪に触れた。

「珍しいのは貴方の髪よ・・・初めて見たわこんな色・・・」
「そ・・・そうか?」
「生まれたときから?」
「ああ。ずっとこの色。ジャンヌの髪だって金で綺麗じゃないか」
「・・・ちょっとぐらい人と変わってたほうがいいじゃない。だって・・・」
「だって?」
「・・・その方が楽しいじゃない♪」
「・・・・・・十分変わってると思うぜ?」
「あら。それほめてるの?」
「・・・どちらとも取れるな。」

そしてジャンヌはまた微笑んだ。それにつられてフォッグも笑った。そんな様子を見ていてセアネルは瞬間移動で教会の外にでた。日は傾きちょうど扉から十字架を照らせる位置だった。そしてセアネルは扉を開け中の弟分に声をかけた。

「フォッグ。そろそろ行くぞ?」
「あ、うん!じゃあな。」
「あ・・・また会える?」
「・・・・・・・・・・・・明日その『ためしの崖』に行ってみるよ!」
「・・・そうしな♪じゃあ明日また会えたら!」

フォッグはセアネルのほうへ走っていきセアネルはジャンヌに軽く頭を下げて歩いていった。後には夕日の光の中にジャンヌが1人佇むだけだった・・・




「バカ」
「役立たず・・・」
「まったく・・・迷惑かけないでくれる?」

ダルク家のソバの木から丘の上の木に拠点を移した四人は報告会議を開いていた。案の定フォッグがやらかした失敗はズタボロに言われ続けた。

「・・・だから悪かったって言ってるだろ?」
「悪かったですむ問題じゃないだろ?まったく・・・人形がすぐ来たから良かったものの・・・大体人形に入らなかったら凡人には見えないお前がどうやって遊ぶんだ?」
「だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴメンナサイ」
「しかし・・・やはし聖女となる器だな。フォッグをいとも簡単に見るんだからな」
「う〜んそれは凄いんだけど・・・ま、とりあえず。予定言うよ?」

そんな会議は夜遅くまで続けられたのだった。



村はずれに高さは大人の身長よりも高い崖があった。その崖から飛び降りる事が出来れば強い男として皆に見られるというものだった。

その崖にフォッグは立った。下にはジャンヌはじめ村の同い年くらいの若者が集まっている。モチロン天使の見えない体ではなく昨日の夜、天界から届いた器に入って他の人間にも見えるようになっている。そしてその羽の出ない体でフォッグは崖から飛び降りた。だがフォッグは鬼監督と化した兄貴分の三人にみっちり扱かれた過去を持っているため、簡単に着地して見せた。すると周りから拍手が巻き起こった。女の子からの視線は疑惑から好意のものに変わり、男とジャンヌからの視線は尊敬に変わった。

「本当にやるとは思わなかった・・・」
「だからコレぐらいあの鬼のような特訓から比べたら朝飯前だって。」
「ちょっとみんな見た〜!?男はコレぐらい出来なきゃダメなのよ!」
「うるせ〜な!ジャンヌ!お前からもなんか言ってくれよ!」
「ロゼーヌの言うとおりだ。男ならコレぐらいやってみろ。」
「・・・・・・何をなさっているのですか?」
「あ、司祭様。」

取り巻きの後ろの方にいつの間にか昨日の教会の司祭が立っていた。司祭はフォッグを見るとあわててよってきた。

「司祭様〜そいつ無傷・・・」
「いいえ。・・・貴方はどこか神聖な空気をまとっていらっしゃる・・・」

その言葉にフォッグは内心ドキッっとした。器に入ることで上級天使特有の風陰気は隠せるが聖職者にはわかるなじんだ匂いというものがあるらしく、そればかりは隠せないといつか誰かが言っていたのをおぼろげに思い出した。

「あ・・・ああ・・・えっと・・・」
「フォッグ!!こんな所にいたのか!」

そのとき崖の上から聞きなれた闇青の天使の声が響いた。その声は対応に困ったフォッグにとって神よりもありがたいものだった。

「あ、セア兄ぃ・・・」
「こんな所でうろうろしてる位ならレクイエムの一説くらい覚えろ。」
「え〜・・・聖書暗誦するだけでいいんじゃないのか?!」
「ンな訳ないだろ・・・戦場の鎮魂に行くんだ・・・それぐらい覚えろ・・・一応お前大司教だろ?」
「え〜だって〜〜」
「って・・・ふぉっぐって・・・」
「ああ・・・こいつまだ言ってなかったのか?南フランスの某大教会の大司教。因みに俺はその補佐官。」
「ってかセア兄ぃが拒否したから俺に回ってきただけだろ!?」
「そういう問題じゃないだろ。」

咄嗟に会わせた会話を聞き、司祭は納得したのかジャンヌたちに挨拶をして村の方へと歩いていった。

そしてその夜。フォッグたちは天界へと引き上げた。その姿を見ていた者が1人いたことにも気付かずに。




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